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研究業績

2023.6.2 有機ELより低コストな発光電気化学セルの動作メカニズムを解明筑波大学プレスリリース

 電子スピン共鳴を活用し、従来手法では困難な発光電気化学セル(LEC)の動作機構を分子レベルで解明することに成功しました。独自に開発したLECの構造を活用し、電子スピン共鳴とLECの性能を同時に計測する、世界初の測定手法を用いた成果です。
 LECが動作している状態で電荷のスピン状態を観察したところ、LECに加える電圧が高くなるにつれて発光もESRも増えることが分かりました。さらに、観測した信号の理論解析から、ESRの増加の起源は、スーパーイエローに電気化学的にドープ(注入)された正孔と電子であることを突き止めました。また、ドーピングの進行が輝度の上昇と相関していることから、電気化学的にドープされた電荷が発光層上に分布していることが動作メカニズムとして示唆されました。
 本研究チームの開発した手法により、発光電気化学セルの動作機構について、これまでにない分子レベルの情報を提供することが可能となりました。その情報を基にすることで、低コストでより環境負荷の少ない発光素子の製品開発が効率良く進むことが期待されます。

(関連論文:Communications Materials 2023

 

 

 

2022.4.20 三元系高分子太陽電池の安定性向上メカニズムを解明筑波大学プレスリリース

 電子スピン共鳴を活用し、従来手法では困難な三元系高分子太陽電池の安定性向上メカニズムを分子レベルで解明することに成功しました。独自に開発した太陽電池の構造を活用し、電子スピン共鳴と太陽電池の性能を同時に計測する、世界初の測定手法を用いた成果です。
 太陽電池が動作している状態で、太陽電池の内部の電荷状態(スピン状態)の変化が太陽電池の性能と強く相関していました。また、太陽電池の性能の変化は、太陽電池の構成材料である光活性層と電子輸送層の電荷状態の変化に由来することが分かりました。この変化は太陽電池の電流の減少と電圧の増加を生じさせます。そして、3種類の半導体材料のうちn型半導体を光活性層に添加することで、光照射による電荷の蓄積が抑制され、太陽電池の劣化が抑えられることが明らかになりました。
 本研究チームの開発した手法により、太陽電池の劣化を防ぐために必要な、これまでにない分子レベルの情報を提供することが可能となりました。 今後、 本手法で得られた分子レベルの情報を基にすることで、低コスト、高効率かつ長寿命で、環境にも優しい太陽電池の製品開発が効率良く進むことが期待されます。

(関連論文:npj Flexible Electronics 2022

 

 

 

2021.3.5 動作中のMoS2薄膜トランジスタの電子スピン状態を解明筑波大学プレスリリース

 電子スピン共鳴を活用し、従来の手法では困難だった遷移金属ダイカルコゲナイドの電子スピン状態を原子レベルで解明することに成功しました。独自に開発したトランジスタの構造を活用し、トランジスタ動作時に電子スピン共鳴を計測する、世界初開発の測定手法を用いた成果です。

 代表的な遷移金属ダイカルコゲナイドであるMoS2(二硫化モリブデン)を用いて作製した薄膜トランジスタが動作している状態で、3種類の電子スピン共鳴の信号を検出しました。信号の温度依存性などを調べ、理論計算も駆使して電子スピン状態を解析し、3種類の信号がそれぞれ、伝導電子、MoS2中のS原子空孔、MoS2中のMoS6原子空孔に由来することを明らかにしました。また、従来の典型的な原子層物質グラフェンとは異なるスピン散乱機構が生じていることも分かりました。

 本研究チームが開発した手法を活用すれば、次世代半導体材料となることが期待される原子層物質の動作機構について、これまでにない原子レベルの情報を提供することが可能となります。 今後、本手法で得られた原子レベルの情報を基にすることで、更なる高性能トランジスタの開発や磁性を活用した新たな半導体開発などが進むと期待されます。

(関連論文:Communications Materials 2021

 

 

 

2020.12.4  オペランドスピン観測によるペロブスカイト太陽電池の動作機構解明(筑波大学プレスリリース

 電子スピン共鳴を活用し、従来の手法では困難であったペロブスカイト太陽電池の動作機構を分子レベルで解明することに成功しました。独自に開発した太陽電池の構造を活用し、電子スピン共鳴と太陽電池の性能を同時に計測する、世界初開発のオペランドスピン観測手法を用いた成果です。

 この手法による計測の結果、太陽電池が動作している状態で、太陽電池の内部の電荷状態(スピン状態)の変化が太陽電池の性能(電流や電圧)と強く相関していることを見出しました。そして、太陽電池の性能の変化は、太陽電池の構成材料である正孔輸送層の電荷状態の変化に由来することを明らかにしました。この変化は太陽電池の電流の増加や低下と電圧の低下を生じさせます。

 本研究手法により、太陽電池の性能の劣化を防ぐために必要な、これまでにない分子レベルの情報を提供することが可能となりました。 今後、本手法で得られた分子レベルの情報を基にすることで、低コスト、高効率かつ長寿命な太陽電池の製品開発が効率よく進むことが期待されます。

(関連論文:Communications Materials 2020

 

 

 

2017.3.21  Revealing the Microscopic Mechanisms in Perovskite Solar Cells (AIP Publishing press release)

We have revealed the physics for how an important component of a perovskite solar cell works -- a finding that could lead to improved solar cells or even newer and better materials.

 We have used electron spin resonance (ESR) spectroscopy to show that the mechanism of LiTFSI doping to a hole-transport material spiro-OMeTAD is, in fact, responsible for improving the ability of spiro-OMeTAD to carry current. In experiments without light, we found that the number of electron spins in spiro-OMeTAD increased by two orders of magnitude after being doped, confirming the effect of LiTFSI. 

 To see how doping affects the efficiency of a perovskite/spiro-OMeTAD solar cell, we then conducted our experiments on the two materials layered together, with the lights on. The light induces holes to transfer from perovskite to spiro-OMeTAD and generate electric current. We found that doping boosted this hole transfer, demonstrating how LiTFSI improves the efficiency of a solar cell. 

(Ref: Applied Physics Letters 2017

 

 

 

2013.2.28  発電中の高分子太陽電池の劣化の原因を解明(JSTプレスリリース

 高分子太陽電池に光を照射して蓄積する電荷の状態を解明し、それが特性の劣化と明らかな相関があることを、世界で初めて観測しました。

 今回、電子スピン共鳴法(ESR法)を用いて、実際に太陽電池を駆動させる同じ条件下で蓄積された電荷の数を精密に測定し、さらに太陽電池特性を同時に計測する手法を開発しました。この計測の有利な点は、電荷が蓄積した場所を分子レベルで解明できるだけでなく、電荷の蓄積と特性の劣化との相関を、素子を駆動したままリアルタイムで高精度に直接測定できるところです。その結果、高分子材料中に電荷が蓄積され、蓄積量が多くなるほど劣化するという明らかな相関があることも分かりました。
 この解析手法により、高分子太陽電池の特性を劣化させる電荷の蓄積が分子レベルで解明され、またその相関を調べることにより電荷の蓄積を改善するための明確な指針が得られました。今後、本手法が企業や研究者に広く活用されて、素子作製時に電荷の蓄積を生じない工夫を行うことで、劣化を未然に防止し、さらなる耐久性の改善が可能となり、効率向上をはじめとする高分子太陽電池の研究開発および実用化の加速に大きく貢献できます。

(関連論文:Advanced Materials 2013

 

 

 

2012.3.2  有機薄膜太陽電池の劣化機構を分子レベルで解明 -新解析手法による有機太陽電池の高効率化へ-(JSTプレスリリース

 有機薄膜太陽電池注の高効率化につながる分子レベルの新しい解析手法を、世界で初めて開発しました。

 今回、電子スピン共鳴(ESR法)を用いて、太陽電池内部の構造欠陥が起こる部位を測定できる「ミクロな解析測定手法」の開発に成功しました。この測定法の有利な点は、内部構造の電荷状態や分子配向などを精度良く観察できるところです。その新手法によって、素子の初期特性に悪影響を与える電荷が、素子の正電荷(正孔)取り出し層とペンタセン層との界面に形成されることが分かり、その電荷形成の原因を取り除くことで、素子特性の向上が可能であるという分子レベルの観点からの明確な指針が与えられました。

 本手法の確立によって、太陽電池素子作製の初期段階で素子の潜在能力を検討し、高効率化を目指せるデバイスを取捨選択できるようになります。さらに、既存・新規の太陽電池素子について、構造欠陥部位を分子レベルで測定・解明し、改善を図ることで、さらなる特性の向上及び高効率化を目指すことが可能となり、有機薄膜太陽電池の発展に大きく寄与することができます。

(関連論文:Advanced Energy Materials 2012


 

 

 

2006.12.21  トランジスター材料の新しい研究手法を開発(筑波大学記者会見

 有機トランジスタを研究するための、電子スピン共鳴を用いた新しい手法を開発し、トランジスタ中の電荷キャリアの本質的で微視的な性質を研究することに成功しました。
 本研究では、ペンタセンを用いて電界効果トランジスタ(FET)を作製し、電子スピン共鳴により評価を行いました。その結果、ペンタセンFET中の電荷キャリアが磁気的、つまりスピン1/2を持つこと、そして、そのキャリアが空間的に10分子以上に広がっている事を、初めて微視的に証明しました。このキャリアの空間広がりは注目に値する結果であり、これまでは、ホッピング伝導機構に基づいて、キャリヤーの空間広がりは約1分子と考えられており、この値より1桁以上大きく、これはキャリアのバンド的な伝導機構を示しています。また、X線などでは不可能な、キャリアが注入されるデバイス界面での分子配向評価にも成功しています。

(関連論文:Physical Review Letters 2006)

 

 

 

 

研究業績の詳細

詳しい情報については下記をご参照ください

①著作論文

②発表

③特許

③受賞・表彰

④報道

⑥学位論文

 

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