研究内容-マイクロアクチュエータの開発

 Ti-Ni形状記憶合金スパッタ薄膜は、強力で大変位を発生するマイクロアクチュエータ材料として期待されています。また薄膜化により冷却効率が上昇するため、応答性が飛躍的に改善できます。形状記憶合金にとって、マイクロマシンへの応用は本来の特性を遺憾なく発揮できる分野であり、マイクロマシンの開発の初期から形状記憶合金スパッタ薄膜の開発が熱望されていました。形状記憶効果の特性を評価する目安としては、回復力、回復歪み、応答性等があります。

 形状記憶合金の単位体積当たりの仕事は、ピエゾ素子、静電力、電磁力等の他の代表的なアクチュエ−タ素子と比べて二桁以上大きいため、マイクロマシン駆動用のアクチュエータとして最適です。

 また、応答性もアクチュエータの重要な特性です。今までバルク材の形状記憶合金では0.2Hz程度、つまり5秒に1回程度の非常に緩慢な応答性しか示す事が出来ませんでした。これは、熱駆動型アクチュエータであるが故の欠点で、アクチュエータ材の熱容量が大きく、その冷却に時間がかかるからです。このため形状記憶合金アクチュエータはその大変位・大駆動力の利点がありながらも、応答性の悪さからマイクロアクチュエータ用材料としては敬遠されてきました。

 しかし、形状記憶合金薄膜の開発によって材料の熱容量は飛躍的に小さくなり、1〜2μmの薄膜で102Hz程度の応答性が見込まれるようになりました。仕事量が極めて大きいことを考慮すると固有の用途を開拓できる魅力的なアクチュエータ材料です。

アクチュエータの動作原理

図1 アクチュエータの動作原理

 当研究室では、Si基板上にスパッタした形状記憶合金薄膜を用いて、ダイアフラム型マイクロアクチュエータの作製に成功しました。Ti-Ni二元系薄膜では30〜40Hz、Ti-Ni-Pd三元系薄膜で102Hz以上での駆動を確認しています。図1にアクチュエータ動作原理を示します。

 今回作製したアクチュエータは、形状記憶合金薄膜とシリコン酸化膜(SiO2)からなるダイアフラム型アクチュエータです。

 なぜこのような二層構造になっているのでしょうか? 形状記憶合金は一般的には一方向性素子(※)であるため、連続的な運動をさせるためには反対方向の力を与えてやらなければなりません。そのための力として、シリコン酸化膜とシリコン基板の熱収縮率の違いを利用したバイアス力を利用しているため、このような二層構造になっているのです。

 アクチュエータが低温の時は、形状記憶合金はマルテンサイト相であり、容易に変形する事が出来るため、シリコン酸化膜のバイアス力によって、アクチュエータは膨らんだ形状になっています。

アクチュエータの作動サイクル図

図2 アクチュエータの作動サイクル図(高さ軸は拡大)

 しかし、アクチュエータを加熱すると、形状記憶合金は母相に相変態し、記憶していた平面の形状に戻ります。これを再び冷却すると、母相→マルテンサイト相に相変態を起こし、シリコン酸化膜のバイアス力によって再び膨らんだ形状に回復します。このサイクルを3次元図に示したものが図2です。

 このように、室温では膨らんだ形状をしていますが、高温では平面の形状になり、そこから冷却する事によって元の膨らんだ形状に回復する事がわかります。

 しかし、薄膜作成時の大きな問題点として "組成の制御が難しい″ことが挙げられます。そのため、我々のグループでは組成の制御が比較的簡単な、TiとNiを別々にスパッタリングした Ti/Ni積層膜についても研究を行っています。

>>Ti/Ni積層膜の研究

 また、形状記憶薄膜を安価に大量生産するために、急冷凝固法を用いた薄帯(リボン)材の研究も行っています。

>>形状記憶薄帯(リボン)の開発と特性評価

※一方向性素子
 例えば、形状記憶合金バネは室温で伸ばした後、加熱すると縮む(縮んだ状態で形状記憶されている時)が、それを冷却しても再び伸びる事はない。このような、伸→縮は動作して、縮→伸は動作しないような、一方向にしか動作しない素子を一方向性素子と言う。また、伸→縮、縮→伸のようにどちらにも動作する素子を二方向性素子と言う。

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