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自然科学、特に超伝導などの固体物理の研究に興味を持っていませんか?

  1. 大学に入ったらもう将来のことを考えよう。
  2. 学問・研究に制限はない
  3. 自分の適性を見破れ
  4. 「専門バカ」は良いがそれだけでは不十分
  5. 自然科学はどんな美女よりも美しい(?)
  6. 受験勉強とはおさらばしよう
  7. 基礎勉強は何より大切だ
  8. 洋書を読もう
  9. 具体的にどのような勉強がしたいのか?
  10. どのような科目を応用理工学類(他大学では学部)で取ったらいいのか?
  11. 推薦図書

1.大学に入ったらもう将来のことを考えよう

大学に入ってしまうとほっとして受験勉強で張りつめていた緊張感が無くなってしまう人が多い、天下晴れて大いに遊べるぞ、と思ってしまう人が少なからずいると思う。しかし、「人生は長いようで実はとっても短いのだ」と気付いた頃にはもう時すでに遅く、体力も気力も失われかけた老年になっていることが多いのではないだろうか。多くの人生の先輩からの月並みながら正しい進言である。そうならぬように大学に入ったらまず自分の将来を深く考えてみよう。わからなくても良い。最初からわかっていることなどつまらないことに違いないのだから。わからないのが当たり前である。

大学は勉強をする場である。人生について考えたり、様々な問題について自分なりに考え、答えを出す場である。そしてそれを足場とし、糧として将来その人の人生の基礎(基盤)を作る場であり、そのための時間である。研究者になる人も社会にでて様々な職業に就く人もすべてそうである。ここでは特に大学で、あるいは企業で研究に携わる人の場合を想定してみよう。

学問分野の幅は広い。いろいろな方向が無限に広がっているが、超伝導はその中で特に将来有望視されている最先端の材料の研究分野であり、もっとも高度な学問のひとつであるので、チャレンジ精神の旺盛な若者にぴったりの研究内容である。具体的には新しい高温超伝導体の開発や高品質な大型単結晶の育成、様々な基礎物理現象の解明、それらを利用した広い応用研究など多岐に渡る基礎から応用までの研究が目前に広がっている。このような研究を行っているのがこの研究室である(詳細は研究内容紹介を見よ)。

2.学問・研究に制限はない

自然の中に存在する「からくり」を知り、その知識を活用して新しいものを作る、これが学問研究の本質である。この学問研究には上限というものは存在しない。全くの開放系である。したがってどこまで勉強すればよいとか、ここまでこの範囲を勉強しさえすれば十分であるなどという制約は存在しない。むしろほかの自然現象へと連続的に無限遠までつながっていて切れ目がないのが学問研究の実体である。しかしながら、限られた時間と能力の中で何をどこまでするかと言うことは、実は、研究上でも常に問題になることであり、その範囲を律することも研究者の能力のうちと言うことになる。大学4年間で勉強する(あるいはできる)ことのほとんどはすでにわかっている知識があるから、その基本的な流れをまずきちんと理解しておくのが望ましいであろう。そう考えればおのずと考え方も決まってくるし、具体的に勉強する内容も選択されるはずである。「知る」ことへのあくなき好奇心、その理解した内容から体系的に知の世界を組み立て、それを有効かつ自然に調和した形で利用すること、あるいはそのような道具を作ることが学問研究の真髄である。

3.自分の適性を見破れ

人は良く自分のことは自分が一番良く知っていると言う。しかし、他人のことはいろいろと理解できるが、いざ自分のことになるとわからないことが実に多い。しかも客観的に自分を判断することは大変難しい。自分の性格、能力、環境適応性すべてが実は学問研究に大変重要である。どんなに優れた頭脳を持っていても他を理解し環境に適応できない者はただのロボットのようなものである。計算機はコンピュータだけで十分である。自分の能力を的確に判断し、うまく環境に適応しながら自分を大きくしていくという、学問研究環境下で「生きる」テクニックがやはり大変重要である。そのためには常に自分を知ることが大切である。この人間としてのバランス感覚に優れた人が将来必ず成功するのである。単なるお勉強の世界は大学に入ったら即、脱却しよう。

4.専門バカ」は良いがそれだけでは不十分

好きこそものの上手なれという諺がある。好きなことはとことんやるが嫌いなことには全く無関心、これは何もやらず、何もできないことより確かに大変良いことである。「できる」と自他ともに認める人たちはこのケースが多く、また多くの研究者はこの類に属すると思われる。専門バカ的要素は研究者にとって不可欠な要素であることは言うまでもない。しかし、それでは何のために研究するのか?と問い直してみるとき、それに明確な答えは十中八九得られないと思う。自分の行っている研究の意味や意義が実はわかっていないで研究をただ黙々と行っていることに気付くのである。社会やより広い世界に目を見開こう。物事の価値観を養おう。そのためには何が必要か?どのようなものの見方が必要なのか?芸術(美術や音楽など)や歴史、語学、文学、倫理学、経済学などの人文系の学問を理解する必要がある。自然科学の理解と人文科学の理解にある種の共通性を見いだせたら合格であろうか?自然科学と人文科学の違いは実は人間の欲望を扱うか、それ以外の自然現象を扱うかの違いである。人間がこの自然界で生きるひとつの生命体であることを考えれば自然科学的なものの見方で共通に理解できるはずのものであることに気付くならもうかなりのハイレベルに達しているのでこの忠告めいたことは不要であろう。

5.自然科学はどんな美女よりも美しい(?)

自然科学はその基本において統一的な論理性があることを暗黙の前提としている。すなわち自然界にはある種の法則が存在していると仮定しているのである。したがってその法則性を我々は「数学」という手段を用いて表現する。この法則は一般的であればあるほど重要性が増す。例えば自然界の巨視的な物体の運動はニュートンの運動の法則(第二法則)ですべて理解できるのである。また巨視的な電気・磁気現象に関してはマクスウェルの方程式ですべて矛盾無く記述できるのである。ここの電子や分子などの微視的な領域では量子力学という学問の中の Shrodinger方程式ですべてが記述できるのである。なんと単純明快ではないか!一見複雑で何ら法則性など無いように見える自然現象の中にこんな見事な統一性が存在しているとは誰しも驚きを禁じ得ない。誰もがこの「自然の美しさ」に感動を覚えない者はいないであろう(もし感動できない人がいたとしたらもう自然科学方面へ進む道をあきらめた方が賢明である)。この自然界の統一的な姿を見たとき多くの純粋な心を持った若者はその虜となるのである。そしてこの自然法則の美しさは永遠に不滅である。絶世の美女でも歳とともに衰え、悲しきかなやがては老婆となり消えゆく運命にあるのである。

6.受験勉強とはおさらばしよう

「基礎勉強」と聞くと俄然やる気がでてくる人もいるだろう。勉強は大学受験勉強でイヤと言うほどやらされたので得意だと思う人が多いだろう。しかしよく考えてみると、これまでの勉強とは教科書を読み、参考書を見ながらある与えられた問題を解くことであったはずだ。これでは本当の勉強とはいえない。大学に入ったらこのような「受験のための勉強」に毒された「お勉強」から早く脱却しよう。大学において必要な勉強とは自然界に存在する統一性を前提として様々な自然現象の統一的な存在形態をひとつひとつ理解し、実証していくことであり、さらにその統一性の奥深さを最先端の研究現場にいたるまで知ることにある。そして研究の最先端で何が問題なのか、どのようにしたらより統一的に自然界が記述できるのかなどを考える素地を養うことにあるのである。これが大学における勉強の意義である。

7.基礎勉強は何より大切だ

このような勉強を積み重ねることで小学生でも理解できるようなことから大変難しい何とか理論までほとんど一つか二つの基本的な考え方で理解できるようになるのである。大変違った振る舞いをする現象でも実はその根本は概念としてほとんど同じであることに気付くことが多いのである。そうなると実は少し悪賢くなってくる。自然界に存在するごく簡単な現象から出発して難解な最先端の問題を解いてやろうと。論理的法則性が成り立つからにはこれは大変有効な手法である。しかし、この手法が使えるようになるためには大変優れた直感力が必要である。この直観力は天性もあるが、多くの基本的な易しい例題を良く理解することで養うことができる。すなわち、直観力に磨きをかけることである。こうすることで、ある未知の現象に遭遇したとき、直感的に「ピーン」と来るのである。この「ピーン」と来るか来ないかが後々良い研究ができるかどうかの分かれ目になる。要するに身近な物理現象を良く理解することだ。そのための基礎勉強が何より重要である。これが良くできる人はどんなに難しい、高級な物理の問題でも小学生にわかってもらえる話ができるはずである。

8.洋書を読もう

勉強をするためにはその題材があった方がやりやすい。教科書はそのためのものだ。残念なことに我が国には良い教科書が本当に少ない。大学に入って少しまじめに勉強しようと思ったとき、すぐにこの問題に直面する。同じ間違い、つまらない解説が著者は変われど繰り返し繰り返し使われてきている部分もある。ほとんどモノカラーだ(印刷が白黒という意味ではない)。どの教科書をとっても大同小異である。第一教科書が薄すぎる。ある学問の少なくともひとつの体系的記述にこんな薄い書き物でそれができるはずがない。ややもすると大学の教科書は高校の時の参考書よりも薄でないか!大学生をバカにするなと言いたい。このようなモノは教科書という名に値しない。もっと体系だった教科書が欲しい。それには外国に目を向ける以外にはない。アメリカやヨーロッパには名著といわれる教科書がいくつも存在する。概して言えばヨーロッパの教科書は哲学的、アメリカのものはより実践的といえる。どちらも一長一短がある。これらの中には訳本もあるのでいきなり原書では難しいと感じる人は訳本からはいるのも良い手法であろう。ただし、訳本の場合日本語訳が悪いために意味が難解、あるいは全く不明になるような場合も時々見受けられるので注意すること。大学生の頃、日本語の教科書にあきれてほとんどすべての教科書を英語に切り替えたことを思い出す。これができるようになると自然に英語が身に付いてしまう。特に専門用語については全く問題が解決する。ここまで和書をあまり非難しすぎたようなので、最後に少し弁解しておこう。実はいくつか和書にも良書があるのである。それは以下の教科書のリストとその解説を参考にしていただきたい。

9.具体的にどのような勉強がしたいのか?

自然現象への限りない好奇心が大切。どんな小さな現象でも良いから、面白いと思う心が大事。面白いとはすなわち常識にない意外性や不思議なこと、わからないことを知ろうとすることに他ならない。この小さな感動を大切にしよう。

10.どのような科目を応用理工学類(他大学では学部)で取ったらいいのか?

必修科目はすべて研究者の卵にとって血となり肉となるはずである。体育も然りである。以下挙げるものは選択科目のなかで特に必要と思われる科目である。

1年生 力学、線形代数学、解析学
2年生 複素関数 量子力学I 電磁気学、熱力学
3年生 量子力学II 統計力学I 固体物理学 固体電子論 統計力学II
4年生 量子力学III 超伝導工学 回折結晶学

一般に大学で学ぶ物理の主要な基礎領域として力学、電磁気学、量子力学、統計力学が挙げられる。もちろん固体物理の研究においてはこれらの知識は必要不可欠である。しかし大学の講義だけでは実際の研究、例えば固体物理の研究にここが特に重要である、といった情報は入ってこない。また、教科書や参考書などに関しても情報が十分であるとはいえない。そこでここでは上記四領域に関して学習のヒントとなりうる事項を示したい。

力学
物理を学ぶに当たって最低限の素養である。最初は質点を扱うので、高校と同じじゃないか、と失望するかもしれないが(ベクトル演算や微分方程式を使うので本当は違う)、うかうかしていると剛体の問題や解析力学が出てきてあっという間にわからなくなってしまうのでその点に注意。

電磁気学
固体物理だけでなく物理系の、いや自然科学の研究をしていく上でもっとも使う機会が多い領域といえる。最終的にはマクスウェル方程式ですべて記述できるので、それがわかっていれば十分だが、そこに至る過程も重要。固体物理の研究者を目指すなら単位系についてしっかり学んでおくとあとで混乱しない。実験科学者にとってはさらに重要。

量子力学
現代の固体物理の研究は量子力学なしでは語れない。なぜなら、研究のほとんどは原子、電子といったミクロな世界を対象としているからである。特に超伝導は電子の量子力学的性質である波動性がマクロなスケールで現れる現象であり、また電子のもう一つの量子力学的性質である「スピン」と切っても切れない関係にある。多くの大学において3年生までに学ぶ量子力学(基礎概念、シュレディンガー方程式、角運動量、摂動論など)は最低限必要で、大学院入試にも頻出の領域である。それ以降の第二量子化も重要であり、場の量子論は概念だけでも知っていて欲しい。

統計力学
固体物理はまさしく固体における現象を見ており、そこにはおよそ1023個の電子あるいは原子の集団があるので、マクロに現れるのは集団の統計的性質である。この中で特に重要なのは自由エネルギーと量子(フェルミ・ボース)統計であり、これがわかっていないとなかなか苦しい。理論家を目指す場合は不可欠。

推薦図書

ここに挙げた図書名はいくぶん恣意的であることに注意されたい。また、筆者の一人は70年代前半、一人は90年代前半に学生生活を送ったので、多少情報が古いかもしれない。最近の書店にはカラフルな物理の教科書(2,3色刷、オールカラーまでも!)が数多くでており、たった十年前から考えても隔世の感がある。しかし物理の内容は(特に基礎科目においては)変化があったわけではないので以下のリストで十分であると思う。ここに挙げた以外にも数多く良書はあるし、自由な時間の多い学生時代にこそ教養を積む意味でも物理以外のいろいろな本を読むことも勧める。

全般
金原寿郎、「基礎物理学」(裳華房) 1、2年生に適した大変良い教科書である。是非完全に読みこなそう。
力学
後藤、山本、神吉、「詳解力学演習」(共立出版) これを全部やれば十分
電磁気学
J. D. Jackson, Classical Electrodynamics, McGraw-Hill 吉岡書店より訳本あり。
Panofsky and Phillips, Classical Electricity and Magnetism, Addison-Wesley 吉岡書店より訳本あり。
高橋秀俊、「電磁気学」(裳華房) 単位系に注意。
後藤、山崎、「詳解電磁気学演習」(共立出版) 通して演習をするのも良いが、実際の研究で具体的な計算をするときに立ち戻る本として利用。
量子力学
小出昭一郎、「量子力学」I・II(裳華房) 丁寧に書かれているので、これだけ全部やるとひととおりの知恵は付く。
朝永振一郎、「量子力学」I・II(みすず書房) やさしい口調で説明が丁寧にされているが、実は大変奥深い。さすがノーベル賞の朝永先生である。英訳もある。
J. J. Sakurai, Modern Quantum Mechanics, Addison-Wesley エレガントに量子力学を教えてくれる本。波動関数がすべてディラック表示なのでブラケット(<|>)がわからないと辛い。演習も充実している。吉岡書店より訳本あり
L. I. Schiff, Quantum Mechanics, McGraw-Hill 定番。波動関数は式で書き下している。吉岡書店より訳本あり。
P. T. Matthews、「初等量子力学」(培風館) 取っつきやすいので、初学者にはおすすめ。
梅沢、小谷、「大学演習量子力学」(裳華房) ちょっと古いがいろんな問題を網羅している。
統計力学
久保亮五、「大学演習熱学・統計力学」(裳華房) 実に良くできた本。演習はほとんどの問題を網羅しており、各章演習の前にある解説はちょっとしたテキスト並。これだけで十分でしょう。
中村伝、物理テキストシリーズ10「統計力学」(岩波書店) 「久保演習」を使っていて、文章で説明して欲しいときには有効。
固体物理
C. Kittel, Introduction to Solid State physics, Wiley 固体物理の入門書として定番。訳本は日本語が難解。
シリーズもの
R. P. Feynman、「ファインマン物理学」I-V(岩波書店) 内容は幅が広く、自然現象の統一性に重点があるユニークなテキスト。IV(電磁波と物性)、V(量子力学)は特におすすめ。
Landau-Lifshitz、「ランダウ=リフシッツ理論物理学教程」(東京書籍) 難解な名著。独特の考え方で貫かれておりカリスマ性がある。これができれば大学院入試は楽勝。
読み物
朝永振一郎、「物理学とは何だろうか」上・下(岩波新書) 一見、小学生でも読み通すことができるような内容だが、実は深みのあるすばらしい読み物。是非一度は呼んでおこう。
伊達宗行、「物性物理の世界」(講談社ブルーバックス) この手の本はそのほかにも多数あるが、物性物理を面白く手ほどきするユニークな本。