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固有ジョセフソン接合系(IJJ)における物性研究

1. IJJにおけるテラヘルツ発振の機構解明とその応用

テラヘルツ(THz)帯域の電磁波は、分子の回転モードやプラズマ振動モードといった物質固有の低エネルギー励起を調べる上で非常に重要である。しかしながら、THz 帯域の電磁波を実用レベルで安定して供給する発振器は、技術的困難さのために、この帯域以外の発振器に比べ開発が遅れているのが現状である(テラヘルツギャップ)。
このような中、我々は最近Fig. 1に示すようなBi2Sr2CaCu2O8+δ(Bi2212)単結晶上に作ったメサ構造(幅80μm×長さ300μm×厚さ1μm程度)から連続的なTHz 帯域の電磁波を発振させることに成功した[1,2]。我々はこの発振素子が、テラヘルツギャップを埋めることが出来る有力な候補になるものと考えている。

Bi2212 は、CuO2 面の超伝導層と絶縁体的なBi2O2 層が交互にc 軸方向に積層した構造を有し、この物質はジョセフソン接合を結晶単位胞内に持つ固有ジョセフソン接合系と考えられている。この単結晶を用いて作ったメサ構造に電圧を加えたとき、生じる交流ジョセフソン電流とメサのサイズとの兼合いに応じて強いTHz 発振が起きるものと現在考えている。
我々はこのTHz発振の原理や発振モードを明らかにすると共に、高出力かつ安定な発振出力を得るための物理パラメーターを決定することで実用につなげたいと考えている。
[1] L. Ozyuzer et. al., Science 318 1291 (2007)
[2] K. Kadowaki et. al., Physica C 468 634 (2008)


Fig.1 Schematic of the Bi2212 mesas(left) and SEM image of the mesa(right).

2. 高温超伝導体の磁束状態の研究

超伝導体の工業利用において臨界電流などとの関係から磁束の性質を理解することは非常に重要である。高温超伝導体においては、その磁束状態が通常の超伝導体に比べ異常であることが知られている。その原因は、超伝導性が2次元的であることに加え、Tcが高く、コヒーレンス長が短いことに起因している。このため、磁束格子融解現象、異常ピーク効果、磁束線パンケーキの運動、ジョセフソンボルテックス等といった興味深い現象が生じる。このような現象を理解するために、各種高温超伝導体の良質大型単結晶を用いて、輸送現象の測定や磁化測定などを通し研究を行っている。また磁束の研究にもコンピューターシュミレーションは極めて有効な研究手段であり、スーパーコンピューターを用いたシュミレーションなども理論研究グループと共同で行っている。

Fig. 2は、Bi2212における磁束の様子を模擬的に示したものである。 ab面に垂直に磁場を印加した場合CuO2 面内に二次元的な磁束(パンケーキ磁束)が発生し、磁束線はそのパンケーキ磁束が面間で弱結合することで形成される。また、ab 面と平行に磁場を印加した場合、Bi2O2 層に磁束(ジョセフソン磁束)が侵入しロックインと呼ばれる状態になる。 このロックイン状態では、ab 面方向に印加した磁場をc 軸方向に少し傾けても、ジョセフソン磁束状態はパンケーキ磁束を形成するよりもエネルギー的に安定なためその状態が維持される。外部磁場をab面から傾けていき、ある角度(ロックイン角)を越えると、ジョセフソン磁束とパンケーキ磁束が共に存在する交叉磁束状態が実現する。このような磁束状態の移り変わりに対応して現れる興味深い物理現象を、磁場、温度、電流、試料サイズなどをパラメーターとして研究を行っている。

Fig.2 パンケーキ磁束とジョセフソン磁束.