電気化学マイクロデバイスを用いた乳房炎の新規診断法の構築


研究目的

 生乳の生産プロセスでは、乳牛の感染症の1つである潜在性乳房炎が問題となっている。潜在性乳房炎は目視などでの検査が困難な感染症であり、牛乳の質低下や感染の伝播、乳牛の処分などによって、酪農家の経済的損失の7割を引き起こしている。これらの問題を解決するために、本研究では、潜在性乳房炎を生産現場で早期に検出するための新規検査用デバイスの構築を目的とした。


研究内容

 潜在性乳房炎では、生乳中の好中球数が増加するため、好中球の産生する活性酸素の一種であるスーパーオキシド(O2)が鋭敏な指標となりうる。そこで、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)を分子認識素子とした電気化学センサーチップを作製した。作製したセンサーチップは3電極系を形成したガラス基板上にポリジメチルシロキサン(PDMS)を張り合わせた構造となっている(Fig.1(a))。また、金作用極上にシステインの自己組織化単分子膜(SAM)を形成させ、そこへ酵素SODを固定させた(Fig. 1(b))。
 実際に乳房炎に感染している乳牛から得た生乳サンプルを用いてO2の検出を行った。測定対象として、好中球の混入したサンプルとそのサンプルに好中球活性化剤であるオプソニン化ザイモサンを添加したサンプル、比較対象として好中球が混入していないサンプルとそのサンプルにオプソニン化ザイモサンを添加したサンプルの計4つのサンプルを使用した。その結果、好中球の混入したサンプル、さらにオプソニン化ザイモサンを添加したサンプルでは、好中球の混入していないサンプルに比べて明らかな検出電流値の上昇が認められた。よって、本デバイスは乳房炎の検査用装置として使用可能であることが示された。



Fig. 1 (a)デバイスの分解図。(b) SODを固定した様子。


Fig. 2 生乳サンプル測定における電流応答。
(a)好中球とオプソニン化ザイモサンを含む溶液。(b)好中球のみを含む溶液。(c)オプソニン化ザイモサンのみを含む溶液。(d)バッファー溶液。