凍結乾燥マトリックスを用いた酵素分析デバイス


研究目的

 微小化学分析システム(Micro Total Analysis System, µTAS)を用いて酵素分析を行う際、酵素と基質の混合操作は重要である。µTASの実現においては、サンプル導入用ポンプの使用、内部試薬の使用、あるいはそれを輸送するための新たなポンプなどの使用を回避することが望まれる。さらに、反応溶液が迅速に均一となることが反応速度論的解析でも求められる。そこで本研究では、ポンプの使用を必要とせず、酵素と基質の迅速な混合を可能にするデバイスの開発を目的としている。


研究内容

 本研究では、食品工学、タンパク質工学の分野で、主として生成物の保存の際に用いられる凍結乾燥法に着目した。凍結乾燥体は、昇華過程を経て生成物質中から迅速に水分を取り除くことによって得られるため、安定に保存される、また多孔質な構造を有することから溶媒への溶解が容易となるなどの利点を備えている。
 凍結乾燥マトリックスの作製においては、酵素分析に必要な酵素あるいは酵素基質を担体溶液とともに微小流路中に導入し、超低温下で予備凍結後、専用の装置を用いて乾燥した。得られた凍結乾燥マトリックスは多孔質な構造を有し、微小流路中を均一に満たすことが確認された。
 凍結乾燥マトリックスを複数形成した流路シートと、流路に対応する数の電気化学的L-グルタミン酸センサを形成したウェハを組み合わせることで、肝機能診断用マイクロヘルスケアシステムを実現した。実際に、肝機能の指標となるGOT、GPT、そしてγ-GTPの活性を測定した。


(a): 微小流路中に形成された凍結乾燥マトリックス
(b): 凍結乾燥マトリックスを用いた酵素分析デバイス


[参考資料] Katsuya Morimoto, Sanjay Upadhyay, Terutaka Higashiyama, Naoto Ohgami, Hitoshi Kusakabe, Junji Fukuda, Hiroaki Suzuki, “Electrochemical microsystem with porous matrix packed-beds for enzyme analysis,” SENSORS AND ACTUATORS B: CHEMICAL, 22, 477-485 (2007).