蒸発的濃縮による微小領域への酵素の高密度固定化とその効果


研究目的

 現在、微小化学分析システム (μTAS)の研究が活発に進められている。さまざまなマイクロシステムが提案されているが、電気化学的システムは微小化が容易で、ヘルスケアシステム等への展開が有望視されている。ここで、微小流路中における電流測定型酵素センサによる高感度、高効率センシングは重要な課題の一つである。本研究では、これを実現するための一手法として、超撥水面を利用することにより、酵素を含む液滴を蒸発的に濃縮し、高密度に固定する方法を開発した。これにより、測定対象物質の電極への輸送が増大し、より効率的に酵素反応を進行させることができるものと期待される。


研究内容

 酵素固定化の効果を調べるため、Fig. 1に示すデバイスを作製した。酵素の蒸発的濃縮固定を行うにあたり、撥水性のテフロン微粒子(粒径 1 μm)を用いて作用極を除く周囲に超撥水面を形成した。作用極上に酵素を含む液滴を滴下すると、超撥水面上を濡れ広がることなく、作用極のみに接触したまま球形を保つ。蒸発が進むと、酵素を含んだ液滴は作用極上に向かい集中的に収縮する。これにより微小な作用極上のみに高密度の酵素固定層が形成される(Fig. 2)。酵素を微小な電極上に高密度に固定することにより、酵素電極上への基質の拡散輸送効率が向上する(Fig. 3)。測定は酵素反応により生成する過酸化水素を+0.7 Vに印加した作用極上で酸化させ、電流測定方式で測定した。


Fig. 1 デバイスの構成



Fig. 2 固定化酵素の様子



Fig. 3 酵素電極への基質の拡散モデル
(断面図)