フィードバック機能による微小銀/塩化銀電極電位の安定化


研究目的

 電気化学的原理に基づく微小化学分析システム(µTAS)は、微小化や大量生産において有利であり、実用化への期待が高まっている。このうちポテンショメトリーやストリッピングボルタンメトリー等、電位を問題とする分析手法においては、電位の基準となる参照電極が非常に重要な役割を果たす。微小参照極としては銀/塩化銀電極がよく用いられるが、この電位を一定に維持するには、電極付近のCl濃度を一定に維持する必要がある。しかし、µTAS中の微小空間内で急速な濃度変化が起こりうる場合には、これは必ずしも容易ではない。そこで本研究では、変則的三電極系を用い、負のフィードバックをかけることによりCl濃度を一定に維持する制御機構を開発した。これを用いて、微小銀/塩化銀電極電位の安定化を試みた。


研究内容

 デバイスは、すべて銀/塩化銀からなる変則的三電極系を形成したガラス基板と微小流路を形成したpolydimethylsiloxane (PDMS)基板を貼り合わせて作製した(Fig. 1A)。PDMSには、微小流路の他、電極を収容する2つの電極区画を形成した。このうち、参照極と対極は同一区画に配置し、作用極はもう一つの区画に分離して形成した。さらに、参照極区画はサンプルが流れるメイン流路に接続した(Fig. 1B)。
 Fig. 2に動作原理を示す。はじめにすべての電極区画に一定濃度のKCl溶液を満たす。次に、ポテンショスタットを用い、作用極−参照極間の静止電位を測定し、これを作用極に印加する(Fig. 2A)。ここで、メイン流路を流れるサンプルによって参照極区画のCl濃度が増加する場合を考える。これに伴い参照極電位は負の方向へとシフトし、作用極には参照極電位変化分の過電圧がかかる。ここで、作用極は非分極性の銀/塩化銀であるため、負の大電流が流れる(Fig. 2B)。それに伴い対極上では正の電流が流れるが、ここで対極もまた銀/塩化銀であるため、ここではAg + Cl→ AgCl + eの変化が生じる。この結果、参照極区画のCl濃度は減少し、参照極電位は元の電位に戻る(Fig. 2C)。参照極区画のCl濃度が減少する場合には、逆方向の変化が起こり、同様に電位変動は抑制される



Fig. 1 試験デバイスの構造. (A)構成. (B)電極群周辺の拡大図


Fig. 2 フィードバック動作原理



[参考資料] 安達 貴広, 福田 淳二, 鈴木 博章, “フィードバック機能による微小銀/塩化銀参照電極電位の安定化”, 第76回電気化学学会, 京都大学吉田キャンパス, 2009年3月