光学素子集積化微小流体デバイスによる微量タンパク質の迅速定量


研究目的

 移植治療における拒絶反応防止や術後の炎症・感染症予防のため、患者毎に薬剤感受性試験を行い適正な薬剤及び投与量を決定することは治療の質や治癒率向上に不可欠である。しかし、判定に2日以上の時間と人的コストを要するため、一部を除き薬剤の血中濃度により経験的に投与量を決定せざるを得ない状況がある。そこで、測定の省サンプル化・迅速化・簡易化が実現されれば、患者の負担軽減及びQOL向上に貢献できると期待される。本研究では、血中の微量タンパク質であるサイトカインを迅速に分析すべく、光学素子を集積化したマイクロデバイスを構築してELISA法への応用に取り組んだ。


研究内容

 ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、空気よりも高い屈折率を持っているため、レンズやミラーといった光学素子を構築することができる。この技術を用いて2 cm×1 cm程度のチップを作製し、250 nLの溶液を5 mmの光路長で分析できる光学測定セルを持つ微小流体デバイスを実現した。この測定用流路内で、タンパク質検出法のであるELISAを行うことにより、微量サンプルかつ短い反応時間でタンパク質を検出できる。さらに、抗体の固定化にAPTESとの静電相互作用を利用することによりわずか30分で固定化を完了した。また、測定用流路に平行して空気バイパス流路を設置することで、単純な送液操作のみで、光学測定やタンパク質活性低下の原因となる空気を測定用流路へ入れずに溶液交換できる。このデバイスを用いて、サイトカインの一種であり、免疫抑制剤により産生量が減少するIL-2を定量したところ、サンプル導入から15分で50-1000 pg/mLという低濃度のIL-2を定量することができた。



Figure A 作製したデバイス

Figure B 上:光学セル部分
(測定用流路+空気バイパス)
下:マイクロレンズと光ファイバ挿入口

Figure C 本研究におけるIL-2検出の手順