疎水性SAMを利用したマイクロバルブの研究
-自律的送液システムの構築-


研究目的

 μTASと呼ばれる微小化学分析システムを実現する上で、微小なデバイス中でのサンプルや試薬溶液の送液を制御することは重要なファクターの1つです。しかし、これまで開発されてきた送液の制御を担うマイクロポンプやマイクロバルブの多くは巨大な外部電源や外部装置を必要とするものであり、チップ型センサの優れた携帯性を活かすことができませんでした。
 本研究では、白金電極と疎水性の自己組織化単分子膜(SAM)を利用したマイクロバルブをポテンショスタットによる電位印加ではなく、白金電極の混成電位スイッチングにより動作させることで、デバイスへの溶液導入のみで流路中の送液が自律的に制御される、外部装置を必要としない送液システムを開発しました。


研究内容

 本研究における送液システムの動作原理について、図1に示します(マイクロバルブの原理についてはこちら)。このデバイスの基本構造は図1に示されるように、1つの白金電極上に2本の流路が乗った形になっています。メイン流路に導入される電解液はバルブ領域で送液が停止されますが、制御用流路中の亜鉛の酸化反応に応じてSAMが還元脱離するため、メイン流路の電解液の送液が再開されます。これによって外部装置を使用せずに、溶液導入のみでマイクロバルブの制御が可能となります。
 このユニットを配列化したものが、図2のデバイスとなります。デバイス中には4本のメイン流路と制御用流路が形成されており、制御用流路中の亜鉛はメイン流路のマイクロバルブと次の制御用流路のマイクロバルブに接続されています。
 図3に、このデバイスの動作実験結果を示します。このデバイスではメイン流路における約3分おきの逐次的な溶液の排出という送液操作を、外部装置を利用せずに溶液を導入するだけで自律的に行うことができました。



図1:自律送液の原理

図2:逐次溶液排出デバイスの構造 (立体図(a)、平面図(b))



図3:デバイス動作の様子