電気化学的オートマチックマイクロpHスタット


研究目的

 微小化学分析システム(Micro Total Analysis System, µTAS)を用いて生化学反応を分析する際、反応系のpH制御は非常に重要である。それは、酵素に代表されるほとんどの生体物質が、その活性発現のための至適pHを有しているからである。現在の生化学分析では、実験系のpH維持のために緩衝液が使用されるが、 µTASの実現においては、内部緩衝液の使用、あるいはそれを輸送するための新たなポンプなどの使用を回避することが望まれる。そこで本研究では、サンプル溶液のpHを自動的に制御できるデバイスの構築を目的としている。


研究内容

 本研究では、電気化学分析で用いられる三電極系を変則的に構成し、さらに汎用ツールであるポテンショスタットのみを使用して、溶液pHの変化を自動的に補償する(負のフィードバック)機能を有するマイクロpHスタットを開発した。この際、電極の性質をうまく利用することによって高速なフィードバック応答を実現した。
 通常の三電極系(図(a))では、参照極に非分極性電極(水素電極、カロメル電極、Ag/AgCl電極など)、作用極に電位窓の広い分極性電極(Pt、Auなど)が用いられ、ポテンショスタットを用いて作用極電位を厳密に設定し、作用極−対極間に電流を流すことによって作用極上での酸化還元反応が分析される。これに対し、マイクロpHスタットでは、参照極にpH応答性電極、作用極に非分極性電極(Ag/AgCl電極)が用いられる。 また、対極は水の電気分解を起こしてpH変化を補償するためのアクチュエータ電極の役割をなす(図(b)) 。
 開発したマイクロpHスタットによって、溶液のpHが一定に維持されるだけでなく、任意のpHに変化させることが可能となった。また、このデバイスは、pHを制御しながら滴定を行うことも可能であり、酵素至適pH下での酵素活性測定を含む酵素分析を実現した。


電気化学的三電極系. (a) 通常の三電極系, (b) 変則的三電極系




[参考資料] Katsuya Morimoto, Mariko Toya, Junji Fukuda, and Hiroaki Suzuki, “Electrochemical Automatic Micro-pH-Stat for Biomicrosystems,”ANALYTICAL CHEMISTRY, in press.