研究概要

 固体中の電子のスピンに関連した現象や物性を明らかにすることで、スピンを利用した新しいエレクトロニクス(スピントロニクス)の実現に貢献することを目指して研究をおこなっています。従来のエレクトロニクスは電子の電荷のみを利用して、情報の処理や記録というITとしての機能を果たしてきました。
 電子は電荷に加えてスピンという自由度を持っていて、ミクロな磁石としての性質を示します。このスピンを利用すれば、従来の電荷のみの利用したエレクトロニクスに比べてより高機能を実現することができると期待されます。しかし、多くの電子が集まったとき、通常はスピンの向きはバラバラとなり、スピンの性質を発現させることはできません。

 一方、磁性体などでは物質の内部に含まれる電子のスピンの向きが揃っており、またそれ以外にもスピンの向きを揃える現象があることが知られています。そのような物質や現象をうまく利用すれば、スピンの向きを制御した新しいデバイスの機能を実現することができます。当研究室では、スピンの向きをコントロールしてデバイス機能に結びつくような新しい物質を開発したり、現象を解明して、スピントロニクスの実現を目指しています。

磁性半導体

通常の半導体は磁性の性質を持っておらず、内部に含まれる電子のスピンはバラバラの方向を向いています。スピンを利用したトランジスターなどのデバイスを実現するためには、磁石の性質を持った新しい種類の半導体を開発する必要があります。これまで、半導体に磁性の性質を持った元素(Fe,Coなどの遷移元素)を混ぜて、半導体に磁石(強磁性)の性質を持たせた新しい種類の半導体(磁性半導体)の物質開発が行われてきました。これまでの研究で強磁性となる半導体物質はいくつか見つかっていますが、強磁性となる温度が室温を超え、また不純物等ではなく物質固有の性質として強磁性となることが確認されているものは見つかっていません。このテーマでは、より高い温度で強磁性となる磁性半導体の新材料を探索すると共に、強磁性となるメカニズムを解明することを目指しています。

量子ドット中の単一スピン

電子をナノメーター程度の狭い領域を閉じ込めたものを量子ドットと呼び、電子のエネルギーがとびとびになるなど量子力学的な性質が露わになり、単一電子のトランジスターや強力な発光が得られるレーザーなどのデバイスに応用されています。この量子ドット中に磁性の性質を持つ原子を1個だけ入れた試料を作製し、電子と磁性原子のスピン1個との相互作用を調べ、スピンを操る手法の開発を目指しています。これにより、磁性原子の原子1個のスピンを利用した究極のメモリや量子情報処理への応用に繋がることを期待しています。

トポロジカル絶縁体

最近、トポロジカル絶縁体と呼ばれる新しいカテゴリーの物質群が発見され、注目を集めています。この物質群は、固体の内部は絶縁体ですが、表面は電気を通す金属的な電子の状態が存在するという従来の固体にはない性質を示します。さらにその表面の金属的な状態における電子はスピンの向きが揃った状態にあることが見出されています。このような不思議な性質を持つトポロジカル絶縁体の薄膜を作製し、その表面の電子の振舞いを調べる研究を行っています。表面の金属状態にあるスピンの揃った電子をうまく利用して、スピントロニクスのデバイスへの応用を目指しています。