極限環境を用いた超伝導体の臨界状態の解明における
最近の研究話題

 

筑波大学物質工学系 教授 門脇和男

本研究期間も残すところあと半年となったが、研究の主題である高温超伝導体の磁束状態の解明に向け、ここ1年ほどの間に再び新しい大きな進展があり、現在、急速に理解が収束に向かいつつある。この解明が終われば磁束状態の理解がほぼ完結し、最終目標の達成となるだろう。現状はこのようであるが、その中で特に最近、話題性が高く、進展の著しい研究内容を2点、ハイライトとして挙げたい。

1.全角度領域にわたる磁束線格子融解現象の解明

2.超伝導層に平行に磁場がある場合のジョセフソンプラズマ

どちらの問題にしても、強い2次元的層状性が重要な役割を果たす現象である。超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+dは2次元的層状性の強い典型的な系であることから、この系のコルビノ法を用いた磁場中での電気抵抗、極微小コイルを用いた磁束系の交流応答、磁気トルクなどの詳細な研究を行っている。これまで得られた新しい現象として、@1次相転移である磁束格子融解現象は磁場がab-面内の極く近傍で2次相転移に移行すること、A1次相転移が消失する領域は電流-電圧特性が非線型であること、B超伝導転移温度Ts以下約0.5 Kの範囲では再び1次転移が復活するように見えること、Cc-軸方向とab-面内方向では融解転移磁場の温度依存性が異なるが、スケ−リングが可能であること(ただし、1次転移が消失する極くab-面内近傍はスケ−ルしない)、Eこの結果、異方性パラメ−タ−gは温度依存性を持ち、温度上昇とともにTs近傍で増大するが、Ts以下0.5K付近でほぼ一定となり発散はしないこと、などが挙げられる。このような実験事実はこの系特有の表面バリヤ−の効果を排除し、高品質の単結晶を用いて初めて明らかにされたことであり、最近の解析的な理論的予測や数値シュミレ−ションの結果と良い一致を示している。この結果から、高温超伝導体の純粋な系における磁束状態は結局、全角度領域にわたり解明されたことになる。

このような磁束状態の理解をもとに、外部磁場が超伝導ab-面に平行な場合のジョセフソンプラズマ共鳴を行い、これまでc-軸方向で観測されてきたジョセフソンプラズマモ−ドとは全く異なる新しい2つのモ−ドの存在を発見した。この2つのモ−ドはジョセフソンプラズマがab-面内にあるジョセフソン磁束系と強く結合することで発生し、ジョセフソン磁束系の自由度を取り込んだ新しいプラズマモ−ドを形成するために起こる現象であると結論される。そのうちの一つは、ジョセフソン磁束が層間内に周期的配列によって、ちょうど電子系のバンドのように、電磁波のバンドが発生することによって発生する新しいプラズマモ−ドであり、これは基本的には超伝導体内を伝搬する電磁波と同等のモ−ドである。もう一つは、ジョセフソン磁束線格子の振動モ−ドと直接結合する振動プラズマモ−ドである。実験的な検証はほぼ完成しているが、理論との定量的な比較は非線形現象であるため、理論計算が困難となり、残された今後の問題となっている。

このように、磁場がab-面内近傍にあるとき、様々な新しい現象がジョセフソン磁束状態で発現する事は理論的に指摘されてから久しいが、実験的に検証され、しかも、それに伴う多彩な物理現象の存在が実験的に確認されたことはこれまで無かった。この新しいジョセフソン磁束状態がもたらす様々な物理現象の全貌を急ピッチで解明しているのが現状である。多種多様なピン止め効果による現象を除けば、基本的にはこれで高温超伝導体の磁束状態はほぼ完全に理解できたことになる。このような成果は我が国のこの分野における研究が世界的見地からも主導的な立場にあることを示している。実のところ、このような背景には、10年以上にわたる研究と努力の末、高品質で大型の単結晶育成が我々の手で可能となったおかげであることを最後に付け加えておく。

(平成12年9月27日)