研究内容
分子生物学時代の到来
 1953年のワトソン・クリックによる、DNAの二重らせん構造の発見以来、この50年間で生物学は大きな進展を遂げました。この発見をきっかけに、生物を理解するために物理学と化学の立場から分子レベルで生物を研究するという分子生物学という分野が注目され、大きな成果を生んだのです。分子生物学では、たとえばDNAの複製、遺伝子の転写、翻訳など生物の中で起こっている生命現象を分子の振る舞いとして説明することに成功しました。現在では分子生物学で得られた知識はバイオテクノロジーとして医学・薬学・農学・工学とはば広い分野で応用されています。


なおもわからない生物
 このように分子生物学が輝かしい成果を挙げている今日でも、生物についてはわからないことが数多くあります。それは、生物がとても多様で、またその仕組みが大変複雑だからです。生物は長い時間をかけて進化するうちに今の人間にはおよびもつかないような複雑で巧みな機能を獲得してきました。それらのほとんどは我々にはまだ未知の領域です。現在、多くの研究者が生物を理解するため日々研究を重ねています。我々の研究室のメンバーもその一人です。


ミクロの物理を基礎に
 現在の分子生物学の基礎は化学です。生物を分子の集まりとしてみたとき、化学を用いることでこれまでわからなかった多くのことが説明できました。しかし、中には化学だけでは不十分で物理の原理にまで立ち返らないとうまく説明できない生物の振る舞いがあることがわかってきました。我々の研究室ではここに目をつけ、生物の中で起こっている現象を物理の法則から理解しようと研究しています。このような分野は生物物理といわれ近年注目され始めています。
生物といえども、その振る舞いは例外なく物理法則にしたがっているはずです。したがって、物理法則から出発して生物の巧みな機能も説明できなくてはなりません。もし、できないとなるとそこには我々の知らない物理が隠されているということにもなります。
我々の研究室では、特にこれまでの分子生物学ではあまり考慮されていなかったミクロな物理学、すなわち量子力学・統計力学を基礎として、これまでわかっていない生物内の現象を理解することを第1の目標としています。また、その過程でこれまで知られていない物理現象を発見することが第2の目標です。第3の目標はそれらによりわかった生物の巧みな機能を他の分野に応用するための示唆を与えることです。


量子力学・統計力学+時間発展
 量子力学はミクロなものの振る舞いを記述する物理です。分子生物学では生物をミクロな視野で分子の集合と考えます。したがって、分子レベルで物理法則を適用するには量子力学を使う必要があります。また、分子といってもひとつの分子がぽつんとあるのではなく、たくさんの分子の集合です。それらは常温において機能します。このような熱平衡状態での集合(アンサンブル)をとり扱ったものが統計力学です。さらに、生物・化学現象は時間に対して動的です。すなわち、時刻に応じて刻一刻と変化します。つまり我々は量子力学・統計力学が組み合わさった時間発展する問題を取り扱うことになります。現在このような問題に関する理論はいくつか標準的なものが考案されてはいますが、いかんせん問題が複雑なので一筋縄ではいかずまだまだ未発展の部分も多いのです。

研究手法は理論
 研究手段は理論による記述です。したがって実験はしません。使用する道具は紙と鉛筆とコンピュータです。多くの場合研究は先行研究の論文を読むことから始まります。次にアイデアがあり、対象をモデル化し、それを物理と数学で展開し、コンピューターに計算させる。そして、その研究結果を論文にまとめるのです。理論という研究手法を行う者に求められるのは論理的な考え方ができるということと共にいかに幅広い分野にわたっていろいろなことを知っているかということです。そう考えると、大学の4年間で学べることには限りがあるので、最先端の内容をすべて自分自身でやるには少々無理があるのではないか思われるかもしれません。しかしそこはご安心ください。我々研究室の経験豊かなスタッフ達が丁寧に指導・助言いたします。そうしていく中で少しずつ最先端の研究内容と研究とはどのようなものかを学び取ってもらえればと考えております。学生のみなさんが旺盛な好奇心と向上心を常に持ち続けてさえいてくれれば、我々の研究室を巣立つ時にはひとあじ違った自分に成長されていることでしょう。

具体的な研究テーマ
■DNAの電荷移動(東芝・岡崎共同プロジェクト)■
DNA中ではどのように電気が流れるのか?
・ホッピング?
・トンネル効果?
  応用例:DNAチップによる診断(医療分野)
       DNAによる分子コンピュータ(工学分野)
■光合成のエネルギー移動■
光合成はどのようなしくみでおこっているのか?
・光を効率よくあつめるしくみは?
・電子過程はどうなってるの?
概要
光合成とは、植物などが行っている光合成とは光エネルギーを使って水と二酸化炭素を原料に酸素から電子を取り出して有機物を生成する反応のこと。
光エネルギーの他の形への変換。超高効率かつクリーン。将来のエネルギー素子として期待。
その詳細は明らかでない。
  応用例:人工光合成、太陽電池(工学分野)
       エネルギー問題への提案(環境問題)
■その他の研究テーマ例■
・走査トンネル顕微鏡を使うと、タンパク質のどのような性質を知ることができるだろうか?
・化学反応速度に関する従来の理論は、生体反応にも適用できるだろうか?
・溶液の熱ゆらぎは、化学反応速度にどのような影響を与えるだろうか?


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