コーヒーブレイク


君は、これを立体視できるか?


86個のクロロフィルa分子からなるステレオグラム(藍藻の光合成系1)
(出典:W.D.Schubertら Photosysytem I of Synechococcus elongatus at 4A Resolution J.Mol.Biol(1997)272,741-769 より)
 

最近の物質科学研究においては、研究成果の伝達が、従来のように単なる数値やそれらを元にしたグラフや図形に
よって示されるのみならず、上のように2つの同じ図を組み合わせた“立体視”によりなされることが多くなった。
これは、藍藻(シアノバクテリア)の光合成系1における、色素(クロロフィル、つまり葉緑素)の配置を突き止めた、
世界で最初のステレオグラフである。
両目でうまく焦点を合わせると、クロロフィル(図中では、中心点と四隅に四角を持つ四角)が、
画面に対して斜めに輪のように並ぶ奥行きを見ることができる。
まず、君は、これを立体視できるか?
それができる人のみ、研究に入り得るのだ。

この光合成系1は、光合成プロセスの終端にある色素列で、
太陽エネルギーをいよいよ電気エネルギーに変換する場所だ。
大きく2つの部分に分けることができて、
外側にある大きな色素の輪っかはアンテナ系と呼ばれている。
太陽光のエネルギーを中心に向かって集める働きをする。
中心には、赤や黄色に色づけされている色素からなる反応中心がある。
光エネルギーは、この反応中心で、電子の電気エネルギーへと変換される。

より生物として進化した緑色植物も、
これと同様の光合成系を持つと考えられている。
光合成は、地球上の生命エネルギーの源泉だ。
それが、このような美しい指輪の上でなされている。
生命の不思議をミクロに極めんとする私たちに、神秘の扉がまた開いた。


 
(『物質工学へのいざない』99年度版に住先生が書いた文章を、おくむらが加筆しました)