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電子スピン共鳴(ESR)の原理と特長

ESRの原理

ESRは、スピンを持つ電子が静磁場中にある場合に、スピンの反転により生じる電磁波の共鳴吸収現象で、物質中の不対電子を高感度に検出でき、物質のミクロな情報をもたらす極めて有力な方法です。空洞共振器を用いることや外部磁場変調によるロックイン検出を行うため、高感度、高精度な特長を持ちます。

 

電磁波吸収の原理ですが、基底状態や励起状態で不対スピンが存在する時、そのエネルギー準位は外部磁場によりゼーマン分裂します。その分裂幅は、Xバンド帯(約9 GHz)では約0.03 eV、温度に換算して0.3 Kと、僅かなものとなります。そのため、基底状態から励起状態へのeV単位のエネルギー吸収を観測する光吸収とは異なり、ESRでは基底状態や励起状態そのものの情報を得ることが出来ます。

 

ESR研究で分かる情報

ESRは、電子材料やデバイス中の電子状態や内部構造、欠陥構造等を、原子・分子レベルで解明できる特長があり、定常測定法では、主に、以下の情報を得られます。

 

(1)基底状態や励起状態のスピン状態

電荷や原子・分子のスピン状態を同定できます。デバイス構造を用いた場合、そのスピン状態の電界制御も明らかに出来ます。

 

(2)スピン数の絶対値

材料やデバイス中のスピン数の絶対値を定量的に算出できます。その下限は、おおよそ10^10個程度であり、極めて高感度である。蓄積電荷数や欠陥数の定量的な評価に使用できます。

 

(3)スピン密度分布

電荷等の不対電子の密度分布、いわゆる、電荷の波動関数の空間広がりを決定できます。

 

(4)電子軌道配向観測

スピンが存在する材料やデバイス界面等における分子配向を観測できます。この配向は素子特性と大きな相関を持つ場合が多いです。

 

(5)キャリアダイナミクス

スピンを持つ電荷キャリア等の運動やトラップ時間等のダイナミクスを研究できます。

 

(6)スピン間磁気的相互作用

スピンの磁気的相互作用、つまり、磁性を解明できます。磁気的相互作用には、双極子相互作用、交換相互作用等があります。また、デバイス構造を用いた場合、その磁気的相互作用の電界制御も明らかに出来ます。

 

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