1-1. n型導電性高分子の分子設計と機能開発


 ポリアセチレンが化学的ドーピングによって導電性を発現することが見い出されて以来(白川英樹本学名誉教授はこの業績に基づき2000年のノーベル化学賞を受賞されました)、導電性高分子の研究は国内外で精力的に展開されています。

 近年では、有機EL素子やFET(電界効果型トランジスタ)、プリンタブル回路など、無機半導体を高分子半導体に置き換えた次世代電子デバイスの研究が盛んに行われています。また、導電性高分子の光電変換素子(太陽電池)への応用についても多くの研究例があります。

 しかしながら、これまで研究されてきた導電性高分子の多くは、ポリピロールやポリチオフェンに代表されるように主にp型半導体特性を示すポリマーでn型半導体特性を示す導電性高分子の開発例は少なく、現在もまだそれほど多くありません。これは、ポリピロールやポリチオフェンが化学的・電気化学的な酸化重合によって比較的容易に合成できるのに対し、ピリジンやキノリンのような電子親和力の大きな複素環化合物は酸化重合では合成が困難なことが第一の要因として挙げられます。

 導電性高分子を利用した次世代電子デバイスの開発や分子エレクトロニクスの研究を展開していこうとした場合、有機p型半導体の開発だけでは不十分であり、優良な有機n型半導体の開発と高性能化が必要です。

 Ni, Pd等の遷移金属錯体触媒を使った有機金属重縮合法は様々なジハロゲン化芳香族化合物の重合に適用できることから、多様なn型導電性π共役高分子の開発に有用です。


得られたπ共役高分子は、化学的・電気化学的n型ドーピングが可能でn型導電性ポリマーとして機能します。また、ポリマーを構成する単位ユニットの電子親和力に基づき、ドーピング電位を自在にコントロールすることもできます。


今後さらにモノマーの選択・分子設計を広げることで、n型導電性高分子の高機能化の実現が期待されます。


参考:p型ドーピングとn型ドーピング
導電性ポリマーを導電化するドーピングにはp型ドーピングとn型ドーピングがあります。p型ドーピングは電子受容体(アクセプター)との反応、n型ドーピングは電子供与体(ドナー)との反応で、それぞれポリマー主鎖中に正もしくは負のキャリア(ホールもしくは電子)が生じ、導電性高分子として機能します。

 ドーピング反応の起こりやすさは、ポリマーを構成する単位ユニットのイオン化ポテンシャルもしくは電子親和力と密接な関係が有ります。
 
有機金属重縮合法によるπ共役高分子の開発情報は、東京工業大学資源化学研究所無機資源部門山本研究室のHPが参考になります。

研究内容

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