新しい環状プロトンスポンジ

−アミノピリジンの協同効果によるプロトン捕捉機能の発現−

 非イオン性の有機塩基は有機合成化学の様々な選択的な変換反応の中で重要な役割を果たしています。プロトンスポンジ(1,8-bis(dimethylamino)naphthalene)は隣接するアミノ基の協同効果とメチル基の疎水性シールド効果により高い塩基性とプロトン捕捉能を有することから、様々な誘導体が研究されています。一方、飽和大環状ポリアミンは、環サイズや窒素官能基の種類や数に応じて、一定の数のプロトンに対して非常に強い親和性を示すことが知られています。これは、大環状構造によるコンフォメーションの立体的制約によって窒素原子の孤立電子対が環内で重なり、それらの協同効果によって環内の電子密度が異常に高くなることによるものと考えられています。

 私たちはこれまでの研究において、遷移金属錯体触媒を用いる大環状化合物の創製という観点から、アミノピリジンユニットを基本骨格とするアザカリックスピリジンを調製しています(参考)。アザカリックスピリジンは環状構造内にドナー性の窒素原子が集約された環状ルイス塩基であり、環状構造形成によって窒素原子の空間的配置が制限されています。

 最近の研究から、環内のアミノピリジンユニットの協同効果により、環化三量体であるアザカリックス[3]ピリジン(Az3Py)が高いプロトン捕捉能を有することが分かりました。


 プロトン交換反応によりAz3PypKBHは約23(in CH3CN)と求められました。この値は、プロトンスポンジより高く、アミノピリジンやジアミノピリジンより108倍ほど塩基性が向上しています。これは、環構造形成によって3つのアミノピリジンユニットが協同作用し、プロトンに対して強い親和性が発現したものと判断されます。一方、同じ構造からなるアザカリックスピリジンでも環サイズの異なるものではそのような特異的に大きなプロトン捕捉能はみられません。環サイズの小さいAz3Pyでは環内の電子密度が非常に高く、窒素原子間距離もプロトン捕捉に最適に配置されるためです。

プロトンを捕捉したAz3Pyの分子構造

 今後は、Az3Pyの特長を生かした合成化学的な利用について研究を展開すると共に、さらに大きな環サイズのアザカリックスピリジン類では窒素原子の空間幾何配置・協同効果に基づく選択的包接・認識能の発現が期待されます。

研究内容

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